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福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)771号 判決

控訴人

土屋忠巳

高木辰夫

右両名訴訟代理人弁護士

村田利雄

杉田邦彦

有岡利夫

被控訴人

松林俊己

右訴訟代理人弁護士

本多俊之

河西龍太郎

中村健一

宮原貞喜

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  控訴人らは、「原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張の関係は、原判決五枚目裏四行目の次に改行して左記のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

「控訴人両名の行為は被控訴人の意思に反するものではなかった。被控訴人はなんら拒否の態度を示さず、これを容認していた。また、控訴人らの行為は業務命令に従わない部下職員に対する軽微な助成行為というべきものであり、指導の範囲を超えない妥当なもので、違法性はない。」

第三  当事者の証拠の関係は、原審並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、原判決の認容した限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の示すところと同じであるから、その理由記載を引用する。

1  (略)〔後掲79頁1段目の「理由」から4行目の証拠の付加・訂正〕

2  同六枚目表二行目〔同8行目〕の「日本国有鉄道」の次に「(以下『国鉄』ともいう。)」を、同六行目〔同14~15行目〕の「一四名の職員」の次に「(いずれも国鉄労働組合の組合員)」を、同行目〔同15行目〕の「勤務していた。」の次に「被控訴人は当時国鉄労働組合佐賀電気分会武雄温泉電力区電気技術センター班の副班長をしていた。国鉄当局は、いわゆる国鉄の分割民営化の推進と併行して、かねて社会的に批判の対象となっていた職場規律の乱れを是正するため、昭和五七年三月以降累次にわたり各職場において総点検と各種改善策の実施をしてきていた。電気技術センターでも発足当初から立席呼名点呼を導入して『ハイ』の返答を要求し、同年九月からは管理職等の地位にある者による点呼立会者の数を増加して、点呼の励行を強化したが、国鉄労働組合が当局の方針に反対し、これと激しく対立していた状況のもとで、同組合の組合員たる職員は、右立席呼名点呼を拒否する態度を示していた。また」を、同行目〔同15行目〕の「同技術センターでは、」の次に「服装の整正の一環として、」を、同九行目〔同段19~20行目〕の「従わなかった。」の次に「中には、襟章を持っていないという者もいた。」を加える。

3  同六枚目裏三行目冒頭〔同2段目7行目〕から同七枚目表二行目〔同段26行目〕末尾までを次のとおり改める。

「同日午前八時五〇分同技術センター事務室において、控訴人土屋、国鉄九州総局長崎管理部付の控訴人高木、前記電力区助役北川満章外三名の管理職員等の立会の下に、前記高原、笹栗両助役によって点呼が開始され、指定場所への整列、起立が指示されたが誰もこれに応ぜず、呼名に対して返事をする者もいなかった。つづいて作業指示が行われた後、高原助役が職員に対し、配布してある各人二箇宛の襟章を着用するように指示をしたが、誰も襟章を着用しようとしなかった。控訴人ら前記点呼立会者は、点呼につづいて行われた戸外での体操終了後の午前九時三〇分頃右職員らに対して個別的に襟章着用の指導をしたが、北御門敏浩を除く全員がこれを無視して当日の作業に向うべく順次事務室を出て行った。北御門が自席に着いたところ、控訴人高木が、次いでこれと交替した控訴人土屋と笹栗助役が『手伝ってやる』といって各自千枚通しを使用し、順次左右の両襟に穴を開けて襟章を着けた。その最中に、当日北御門と組んで作業をする予定になっていた被控訴人が外から事務室に入ってきて、所用のため自席に着いたところ、北川助役が襟章を着けるように言い、黙っている被控訴人の傍に、控訴人高木が近付いて、被控訴人の左側から同人が着用していた冬用制服(技術服)の上衣の左襟を引っ張り千枚通しで穴を開け、北川助役と共にこれに襟章一箇を着け、次に北御門のもとから廻ってきた控訴人土屋が被控訴人の右側から同人の右襟を引っ張り、まずボールペンで、次いで控訴人高木から手渡された千枚通しで右襟に穴を開けようと試みたが、被控訴人が『作業に行くから止めてくれ』と言ったので、右行為を中止した。被控訴人と北御門はまもなく事務室を出て作業へ向ったが、その途中で、控訴人らによって着けられた襟章を取り外した。」

4  同七枚目裏一一行目〔同3段目28行目〕の「前記行為は、」の次に「意思を共通にしてなされた」を加える。

5  同八枚目表初行〔同段31行目〕の次に、改行して、「控訴人らは、控訴人らのした前記行為は、被控訴人の意思に反するものではなく、また、その程度も指導の範囲を超えない軽微な助成行為であって違法性はない、と主張するが、前記電気技術センターの職場における管理職員らと国労組合員たる職員の対立状況のもとで、控訴人らによる襟章とり着け行為に対して被控訴人がこれを容認しない意思を有していたことは明らかであり、控訴人らもこれを十分認識していたものというべきであるし(被控訴人が控訴人らの行為に対して強い拒絶の態度を示したことは認められないが、このことは右の判断を左右するものではない)、控訴人らが被控訴人のかかる意思を無視して一方的に行った前記行為をもって指導の範囲を超えない軽微で妥当なものと解することはできず、むしろ行き過ぎの感を免れない。」を加える。

6  同八枚目表二行目〔同4段目1行目〕の「前記行為」を「前記共同不法行為」と改める。

二  よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 谷水央 裁判官 蓑田孝行)

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